初めての『愁思符庵』新年だが、案じたほどの寒さもなく文字通り寝正月と決め込んだ。
例年、元旦もへたくれもなくローカル線の僅かなダイヤに振り回され、早朝から動くのがローカル線旅派の宿命でもあるのだが、今年ばかりはご無礼申し上げて体たらくな元旦。
周回遅れのブログも、今さら何よの世界だが、一応博打屋としては時系列に物事を進めている。
どこで周回遅れを取り戻すか、年明け早々悩ましい話だが、新年を迎えた今日は雪もちらつく冷え込み。
新春旅立ちなんて、縁起良いことを考えもしたが、一夜明けたからと言い、去年の様々な出来事が、急に消える訳でもなければ、解消するわけでもない。
個人の心に残る問題は、一夜越して新年を迎えたとて消え行くものではない。
そう考えると冷え込む『愁思符庵』で、冷たい元旦を迎えたのも人生の理か。
住所変更案内を出さずとも、賀状は転送されるのだが、今回で益々儀礼のやり取りは淘汰されていくだろう。
しかし、例年にまして早い時期に返礼をかけそうだ。
午後、初仕事先を思案していたら、チラホラと雪が舞ってきた。
やがて強い雪になる気配であったが、傘も持たずに京王閣に急いだ。
元旦と言えども、世間が全て休んでいるわけでない。
駅伝もやってれば、サッカーもやっている。
競馬・競輪・競艇・オートもこの時とばかりに、暇をもて余す人種に娯楽を提供しており、そこで働く人々も多い。
しかし、駅までの道々はまるでゴーストタウンのように、強くなった雪の中に沈んでいた。
すぐ近くの地元の神社にお参りしようかとも考えたが、今年は神頼みは止めじゃと心に決め、京王閣の伊東・前橋競輪初日に出向いた。
初博奕であったが、狙いは周回遅れのブログを書くために、レースが見られいざとなったら車券が買える場に身を置いておきたかっただけ。
しかし、まさか選手がお屠蘇酔いをしている訳であるまいが、両場とも荒れに荒れ、お年玉車券の大判振る舞い。
ブログなんか書いている場合じゃないがと、慌てて手を出してもそう当たるものじゃなく、座ったり立ったりの落ち着かぬ午後。
外の雪は止んだが、多摩川上空には、雪雲の切れ目に朱色の夕焼けが美しく広がる。
前橋、伊東の特選を初商いとし、同時締め切りに急かされながら買い求めた。
前橋11Rは人気の天田が村上直久に先まくりされ4630円の中波乱。
もう少し狂ってくれなければお年玉にならなかったが、手を出すレースを間違ったか。
続いて伊東11Rを待ったが、モニターは現地の激しい雪を映しており、やがて中止の放送。
京王閣に残ったファンはため息混じりに払い戻しに大行列。
初払い戻しが、雪による中止払い戻しとは、何だか今年を予感させる皮肉な結果だが、中々払い戻しが始まらない。
列のファンから罵声が飛ぶ。
確かに、通常の払い戻し時に比べ時間がかかり過ぎ。
中止は早々と決まったのだから、返還は早い筈だが、ファンからは不満の声。
どうやら、最終レースの為、締め切り後にお金を回収してしまったようだ。
単純に考えても、払い戻し機には7割5分の金を残しておけば普通なら間に合う。
しかし、全員、全額払い戻しとなると、ひと度機械から返還金を回収すると足りなくなる。
その作業に手間取ったようだ。
想いもせぬ1レース削減の伊東競輪は大誤算であったろう。
ようやく払い戻しが始まり、チャリンチャリンの音があちこちから聞こえてきた。
博打屋もチャリンと払い戻しを受けて、寒々とした駅のホームに立った。
嗚呼、これが今年の年の始まりかと、雨雲を焼く夕空を眺めため息をついた。
帰途、人影のない道を歩きながら、やはり地元の神社にお参りが筋かと立ち寄ることにした。
神社は何段もの石段を上がった上にあるのだが、たまたま、博打屋の前を一組の若いカップルが上がっていった。
少し間を置いて博打屋は本殿に向かったが、先客の2人以外に人影が2人見える。
1人は賽銭箱の近くに立ち、1人は本殿の階段に座り、ジャラジャラ音を立てている。
前の2人がたどたどしく賽銭を投げよとすると、階段に座って何やらしていた婆さんが此方にと、自分の膝に置いた器に入れろと指図しているのが聞こえた。
2礼2拍1礼するアベックを見ながら、暗がりの中での事態が博打屋には読めた。
なるほど、時間が時間どあるし、立ち番を1人置いて、神社の人間が賽銭の回収をしていたのだ。
それにしても、賽銭箱に投げさせず、取り出した内箱の方に入れろとは、ふざけてるではないか。
若いカップルだから、言われた通りにしたが、博打屋はムッとして参拝を止めた。
確かに無用心だから賽銭の回収はしなければなるまいが、さりとて、賽銭箱の横に座り込んで、下からジャラジャラ取り出されている最中、頭を下げて賽銭を投げる気も起きないではないか。
本殿に一礼して博打屋は帰った。
歩いて5分の地元の氏神だが、まあ、今年はやはり神頼みするなと言うことかと思った。
雪は止んだ東京だが、仕事人・外弟子は豪華なおせち料理にお屠蘇も進んだようで、障害者認定の父親を炬燵に残し、家の周りの雪掻きの元旦だったそうだ(写真)。
恒例のウィーンフィルハーモニー交響楽団のニューイャーコンサートで何度目かの酒盛り。
雪に囲まれた元旦も乙なものなんて言うと、雪掻きに来い!と言われそうだ。
何でも、頼むと時給5000円だそうだ。
えっ?博打屋もこうしてる場合じゃない。
今年は本気で雪降ろしボランティアに参加してみよう。