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Channel: 梶山徹夫の『愁思符庵日記』
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『カインの末裔』

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日差しは春だが、風は冷たく寒さが消えない(4日)。

洗濯、掃除と何時もの週始めの主夫をこなす。


このところ冷蔵庫の食材整理の自炊に勤めているが、中々合理的になった。


晩飯は鍋が定番だが、これに磨きがかかった。


以前は鍋の翌日、昼飯にうどんやおじやで食べきったが、先日残り汁で再び2晩目の鍋にしてみると結構良い味。


つまり、継ぎ足し鍋と言うわけだ。


焼き鳥屋やうなぎ屋なら秘伝のタレと自慢だろうが、豚しゃぶの鍋の継ぎ足しは只のズボラ。


しかし、2晩目は寄せ鍋風に味付け、3晩目は味噌を加えてみるとこれがいける。


一粒で三度美味しいではないが、一鍋で四度美味しい。


4日目の昼飯はうどんかおじやで食べきってしまうからだ。


今日(4日)も主夫の後、朝昼兼用の煮込みうどんに化けた。


もっとも、こんな鍋は人様には食べさせられないのだが。


冷凍庫の年代物魚類も一度解凍し、小出しに使えるようにして鍋の具や焼いて食べるが、冷凍焼けした魚はかなり不味い。


鮭やタコやカレイなど、大きい塊で送られて来たのでそのまま保存し食べそびれていた。


毛蟹も後生大事に取っておいたが、パサパサになって出汁用にしかならなかった。

好物の蟹を何てこっただ。

貧乏性は何でも仕舞い込んでしまうが、それこそが貧乏の貧乏たる所以と言う。


冷蔵庫の無駄物は余計な電力を要するのでそれこそ不経済。


何でもかんでも今度使うだろうと仕舞い込むが、今度とお化けは出たためしがないのだ。


そう言えば唸り音が大きくなった冷蔵庫だが、寿命も近いか。


今何かあると買い換えなど出来るわけなく即座に困る。


庫内を身軽にしてやり頑張ってもらわねばならない。

自慢じゃないが、家電製品の多くが寿命に差し掛かっている。


加えて住人もその仲間入りだから『愁思符庵』も老々介護か。



朝の日差しの中で寒そうに風に揺れる洗濯物を眺めながら、今日(4日)が有島武郎の命日と知る。


1878年から1923年を生きた白樺派の文学者で、46歳で情死を遂げた。


初めはキリスト教的人道主義、晩年は社会主義に近づき、1919年のロシア革命を機に北海道の私有農場を農民に解放したと言う。


余り多くは読んでいないが、この文学者の小説・評論タイトルは常々魅力的だなと思ってきた。


『或る女』『カインの末裔』『惜しみなく愛は奪う』『迷路』など、作品は下層階級の女性を描いたものだが、題名は美しい。


作品論は研究者に譲るとして、『カインの末裔』など、学生時代に手にした人は多かろう。


カインとはあの聖書に出てくる「カインとアベル」かと訝しく思ったものだ。


聖書のカインは神に無視され、弟アベルは神に愛される。

その嫉妬から兄カインは弟アベルを殺害し、神に嘘をついたことから重い罰を受ける。


斯くしてカインは人類史上最初の殺人者となり、人々は『カインの末裔』として生まれてきた。


そう有島武郎は言いたかったのか、そうでないのか。

今一度読み返さないと定かでないが、恐らく深い思想に基づいているのだろう。


人類全てが『カインの末裔』で無いことは、『聖書』にあるセツの子孫やノアやアブラハムと言う信仰の家系が物語る。


人間は動物的本能を持ちながらそれを制御し、正しく生きることも出来る。


この二律背反に『カインの末裔』は踏み込んだのではなかろうか。


それにしても『カインの末裔』とは哲学的だ。


日本が近代化の道を猛進する時代に生きた文学者の苦悩が窺えると言うとしたり顔過ぎるか。


命日だから勉強し直したいが、社会主義に傾倒していったこの文学者の苦悩は、奇しくもドイツ人のエルウ゛ィン・フォン・ベルツの書き残した日記が示唆している。


ベルツと言う人は明治期に来日し、東京帝大で医学を教え日本の医学を築いた人だ。


草津温泉にはベルツ通りと言うのがあり、草津を世に紹介したのはこのベルツ。


スキーに通った頃知った名前だが、そのベルツが当時の日本を評して日記に「死への跳躍(Salto ortale)」と書いている。


盲進する日本へ警告を発した内容と言うから、その後の近代史を見ればいかに日本の近代化の果てにあるものを見透していたかが分かる。


時代を更に経て、その警鐘は今日にも通じているのではなかろうか。


情死の文学者の命日に、博打屋は己の『カインの末裔』を改めて知る。

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